なぜむし歯は象牙質で急速に進むのか?-せめてエナメル質でむし歯を止めたい理由とその方法
むし歯はエナメル質を越えて象牙質に達すると、一気に進行が速くなります。
その理由と、エナメル質の段階で止めるための“定期検診とフッ化物ケア”の重要性を解説します。

目次
象牙質とは?
歯の外側を覆う硬い「エナメル質」の下には、象牙質(ぞうげしつ)と呼ばれる層があります。
象牙質は、歯の内部にある神経(歯髄)とつながっており、無数の細いトンネルのような管(象牙細管)が通っています。
この構造のため、象牙質はエナメル質より柔らかく、刺激や酸に弱い性質があります。
歯の色がやや黄みがかって見えるのも、半透明のエナメル質を通して象牙質が見えているからです。
なぜ象牙質では虫歯が早く進むのか
エナメル質はほとんどが硬いミネラルでできているため、むし歯が進むスピードはゆっくりです。
しかし、ひとたび象牙質に到達すると状況が変わります。
- 酸に弱い構造:象牙質は有機成分(コラーゲンなど)が多く、酸で溶けやすい。
- 象牙細管を通る通り道:管の中を通って酸や細菌が奥まで届きやすく、広がりが速い。
- 神経との近さ:刺激が神経まで伝わりやすく、炎症が起こると痛みが出る。
研究では、象牙質むし歯はエナメル質むし歯の約2~3倍の速さで進行すると報告されています(Kidd, 2004)。痛みを感じた時点では、すでに歯の中で大きく広がっているケースが少なくありません。
だからこそ「エナメル質段階」で止める
エナメル質のむし歯(初期う蝕)は、削らずに再石灰化で回復できることがあります。
この段階で発見し、進行を止めるためのポイントは次の2つです。
①定期的なレントゲン観察(バイトウィング撮影)
見た目ではわからない「歯と歯の間のむし歯」も、X線なら早期に発見できます。
成人では6~24か月ごとの撮影が推奨されています(StatPearls, 2023)。
②フッ化物でエナメル質を強化
フッ化物は、歯の表面に取り込まれて酸に強い結晶を作り、再石灰化を助けます。
毎日のフッ化物配合歯磨剤(1000~1500ppm)に加え、歯科医院での高濃度フッ化物塗布も効果的です。
まとめ
- 象牙質は柔らかく、細管構造のためむし歯の進行が速い。
- エナメル質のうちに発見すれば、削らずに管理できる可能性がある。
- 定期的なバイトウィング撮影とフッ化物ケアで、「痛みが出る前に止める」ことができる。
むし歯がないかご不安な方はどうぞご遠慮なくおたずねください。
<参考文献>
- Kidd EAM. What constitutes dental caries? Histopathology of carious enamel and dentin. Caries Res. 2004;38(4):306–314.
- Bjørndal L. The caries process and its effect on the pulp. Int Dent J. 2008;58(4):192–202.
- Featherstone JDB. Dental caries: a dynamic disease process. Aust Dent J. 2008;53(3):286–291.
- de Barros Pinto et al. Natural enamel caries and dentine reactions. Sci Rep. 2019;9:179.